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39 祝宴が始まる

last update Dernière mise à jour: 2026-02-17 21:39:28

 紅い壁に紅い柱。真っ白な提灯がつりさげられて大広間を照らしている。

 日はとうに暮れて、大広間には着飾った女性たちが談笑を楽しんでいた。

 殿下が現れたとき、会場内を拍手が包んだ。

 陛下の挨拶のあと宴会が始まると、すぐに殿下にお目通りをしようと人々が次々に近づいてきた。

 そのひとりひとりを覚えるのはさすがに無理だが、最初に挨拶をしてきたのは十二支族の家長たちだった。

 子、牛、卯、巳、午、未、申、酉、戌、亥。十の家長たちが順番に殿下の前に立つ。

 それぞれが守護獣を従えて。おかげでどの人物がその家の者か見た目で区別ができた。

 守護獣は家長が呼べばどこからともなく現れ、用が済めばどこかへと消えていく。

 牛や午はさすがに大きい。真っ黒な牛や真っ白な午が現れたときは人々が歓声を上げた。

「殿下、お誕生日おめでとうございます」

 白いねずみを肩にのせた男が、殿下に挨拶をする。

 たぶん五十歳くらいだろうか。白髪交じりの穏やかそうに見える男だった。

 疑わしいのは子の家と、巳の家。

 私はその、子の家の家長の様子を観察した。

 にこにこと笑い、殿下と会話を交わしていてとても殿
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